心原性脳塞栓症とは、心臓でできた血の塊(血栓)が血流に乗って流れて、脳の細い血管を詰まらせる病気です。突然発症して重症になりやすく、様々な後遺症が残ることも多いことから、心原性脳塞栓症の予防は重要となっています。一度発症し後遺症が残ってしまった場合、通常の脳梗塞等のリハビリよりも、心臓の負担を十分考慮しながらの介入が重要となります。運動等による強い負荷はかえって体調を崩すこともありますので十分注意が必要となるのです。
脳梗塞のタイプ
脳に血液を送っている動脈が詰まったり狭くなったりする脳梗塞は、3つのタイプに分けられます。
・①脳の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」
・②脳の血管が動脈硬化により詰まったり狭くなったりする「アテローム血栓性脳梗塞」
・③心臓の中にできた血栓が脳に運ばれ、脳の血管が詰まる「心原性脳塞栓症」です。
統計的には、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症はそれぞれ約3分の1ずつの割合で発症していますが、高齢になるほど心原性脳塞栓症の割合が高くなります。超高齢化が進むなか、心原性脳塞栓症は増加傾向にあります。

心原性脳塞栓症の最大の原因は心房細動
心原性脳塞栓症の9割以上は、「心房細動」による不整脈によるものです。心房細動は、女性より男性(4:6)に多く見られます。60代で増加し始め、動悸、めまい、胸痛、不快感などが起こることもありますが、無症状のことも多く、心房細動自体が命に関わるわけではありません。
心房細動が心原性脳塞栓症の発生リスクですので、できるだけ早期に発見したい重要な不整脈と言えます。心房細動になると、心房が細かく不規則に拍動した状態になります。その影響で心房の中で血流が滞り、血の塊(血栓)ができます。これが脳へ運ばれて、脳の血管が詰まってしまうことで、広範囲に障害が及んでしまう原因となるのです。
発症後の治療はスピードが大切
心原性脳塞栓症を発症すると、血流が途絶えた所の脳細胞が壊死していくため、治療開始までのスピード勝負になります。発症直後の超急性期は、治療体制が整っている病院に搬送し、血栓を溶かす薬剤を点滴投与する「血栓溶解療法」や、血管にカテーテルを挿入して血栓を取り出す「血栓回収療法」を行右ことで血流を再開することができます。発症からの経過時間によって、血流を再開できるかどうかが決まります。
異変を感じたら
FASTという状態でしたら、救急車を呼ぶことが大切です。
・Face:顔の片側がゆがんでいる
・Arm:片腕に力が入らない
・Speech:言葉が出てこない・うまく話すことができずろれつが回らない
このうち1つでも当てはまったら
・Time:症状が出た時刻を確認して急いで救急車を呼んでください
参考:日本救命医学会

リハビリの例
ここからは当店でリハビリを担当した方の介入についてお話ししていきます。心疾患と脳血管障害の影響で運動・リハビリ負荷量について注意しながらリハビリを進める必要があった方です。介入当初はベッド上・ベッドサイド中心のリハビリを行い、徐々に立って運動や歩行距離・歩行時間を徐々に増やしたことで日常生活の拡大につながったケースです。
心原性脳塞栓症後のリハビリ介入事例
80歳代男性、2023年にペースメーカー挿入。翌年、心原性脳塞栓症により脳梗塞発症。急性期病院にて入院。その後、国内有数の回復期リハビリテーション病院に入院しPT・OT・STのリハビリテーションを受けました。自宅退院となりましたが退院直前の歩行は病室内の移動は見守りで行われていました。歩行中に右足の膝折れを起こし2回の転倒歴があります。退院後は訪問看護(週1回)による病状のチェック。退院後のリハビリについては当店への依頼がありました。
<回復期病院退院時の状態>
軽度の右片麻痺(BrsⅤ−Ⅴ−Ⅴ)、筋力(MMT右3〜4、左4)
認知機能:正常
基本動作
・寝返り・起き上がり:自立
・歩行:右の膝折れがあり、屋内10m見守り、杖歩行介助がある状態で50m。屋外のみ車椅子使用。
・屋外への移動:車椅子
日常生活動作
・食事:セッティングにて自立(配膳・下膳は介助)
・整容:ベッドサイドでは自立、洗面台への移動は見守り
・更衣:セッティングにて自立
・排泄:移動に見守りが必要、動作自体は一人でできる
・入浴:介助
お客様目標
・自由に自室内の移動ができて、一人で生活できること、転ぶことなく家の中を歩きたい
というご希望でしたので、歩行機能が向上し安全に家の中を移動できることを目標として介入しました。
詳細
介入頻度:週3回 1回90分
かかりつけ医からの指示として無理のない範囲内でのリハビリ(血圧・心拍数・呼吸数等)でしたので、指示の範囲内でリハビリを進めました。
介入当初
回復期病院を退院した直後は体力が低下していていましたので、血圧・心拍数・呼吸数などの変化を考慮しながら、ベッド上で筋力トレーニングを中心に行いました。
90分の時間は20分は脳梗塞の後遺症の影響で硬くなった手足の筋肉の柔軟性を改善するため、関節可動域訓練、5分休憩し、20分は筋力が落ちてしまった手足・体幹の筋力強化を中心に行いました。ベッド上運動後5分休憩、その後10分程度ベッド脇で立ち上がりやバランス練習から行っていきました。残りの時間は座って会話をして過ごすことや日々の自主トレーニングをお伝えするなどしていました。
ご利用から1ヶ月
お身体への負担を考慮しながら、徐々に筋力トレーニングの負荷や立って運動する時間を延長して体力の向上を図っていきました。介入当初は足で踏ん張った時に膝の力が急に抜ける膝折れがありましたが、筋力の向上と麻痺の影響でうまく体重をかけられなかった右足でのバランスを取ること、膝を曲げた姿勢でバランスを崩さない体作りをしました。介入から2週間目には膝折れがなくなり、歩いていてバランスを崩して転倒することは無くなりました。
ご利用から2ヶ月
ベッド上での運動時間を短くし、立って運動する時間・バランスをとる練習時間・連続して歩く時間を徐々に伸ばしご利用から2ヶ月目の60日経過した時点では500mの屋外歩行を達成することができました。通院時は車椅子を使用していましたが、ご自分の足で歩いて移動することが可能となりました。歩行することに自信がついたことで屋外への散歩や病前通っていたお店に足を運ぶなど徐々に元の生活に戻ることができるようになりました。一緒に同行させていただきましたが、再来店できたお店の中で見たお客様の笑顔は今でも忘れられません。リハビリの仕事をしていてよかったと思う瞬間でした。
※リハビリの結果には個人差があり、結果を保証するものではありません。
まとめ
心原性脳塞栓症の9割以上は、「心房細動」と呼ばれる不整脈です。心臓の不調が原因で重大な後遺症が残ってしまうことがあります。そのリハビリは医師と連携をとりながら、心臓への負担を考慮し進めていく必要があります。適切な対応をすることで今回のような結果となることもあります。手足の片麻痺や感覚障がい・術後の体力低下等(廃用症候群)でお悩みの場合、是非とも当店へご相談ください。当店ではリハビリテーション病院や施設で長年リハビリの経験があるスタッフが対応しますので安心してご利用いただけます。
TEL:080−3366−8199
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